ホスピタルアート
高知医療センター(株式会社タウンアート)
2005年に高知医療センターの小児科と産科のホスピタルアートをさせていただいてから、14年が経ちました。まだホスピタルアートという言葉すら馴染みがなく、病院内に、どんな作品を拵えたらいいのか全くわからず、設計士さんとの打ち合わせでは「小児科と産科のどこをやったらいいですか?」の質問に「全部」と答えが返って来て、益々困惑したのを覚えています。
子どもの頃から入院や手術の経験があり、入院している子どもたちの不安な気持ちや、少し元気になって来た時の退屈な日々のことも想像がつきました。そして母親として、出産をして出会う様々な気持ちや、子育て中の心模様もとてもよくわかりました。
病院に来られるそれぞれの方に対して、絵を通じて、できる限り寄り添い、少しでもお役に立てたら…と思い、手探りでホスピタルアートの作品を組み立てて行きました。
小児科には「大きなホープさんのおはなし」として物語を作り、物語に登場する大きなおばあさんと妖精の小人をプレイルームの壁に絵描きました。廊下には大きなおばあさんの足跡や小人の影をつけたり。立体の小人の作品や小さなドアを天井や廊下に設置しました。物語の中にいるように、入院生活で少しでも、ホッとできる瞬間を作りたいと思いました。
産科には、空の国からという詩を書きました。空の国からお母さんを選んで生まれて来た赤ちゃん。「お母さん大好き!」という想いを、絵と詩を通してお伝えしたいと思い拵えました。
初めてのホスピタルアートは「寄り添い、育み、あたたかな繋がりの場作り」でした。手探りではありましたが、これからずっと行っていく私のホスピタルアートの原点となりました。
その後、高知医療センターに入院された方々からお礼を言われることがありました。「子供の入院で、すごく辛かった時、こんなとこにも、あんなとこにも作品があって、ずっと寄り添ってくれていた。本当にありがとう」「出産でいっぱいいっぱいの夜を過ごし、目を開けたら目の前に絵があって、とても励まされた…。」たくさんの方々からメッセージをいただきました。そんなお話を聞くたびに私の方が励まされ、絵を描かせていただいていることに、ありがたい気持ちになりました。
それから、次々とホスピタルアートのお仕事の依頼があり、お医者さまの想いに触れさせていただけるようになりました。患者さまに対するあたたかな想い、優しいお人柄に感動しながら、絵を描かせていただきました。大きな総合病院さんでは、アートコーディネーターさんや設計士さんのあたたかなお気持ちに支えられながら、共に拵えて行きました。
ここで紹介させていただいている作品は一部ではありますが、皆様、そして全ての子ども達に優しさが届けられる様に、作品集にいたしました。
ホスピタルアートを拵えていくにあたりお世話になったたくさんの皆さまへの感謝を込めて…。
~高知医療センターの物語より~「大きなホープさんのおはなし」
むかし、池のほとりにたいへん大きなポンカンの木がはえていました。その木はご神木として人々に大切にされていました。大きな木はずいぶん長くそこに立っていたので、自分が動けないことを、とても もどかしく思っていました。
木のまわりで遊んでいる子どもたちをながめながら、ころんだ子をだきおこしてあげたい・・・泣いている子の涙をふいてあげたい・・・と思っていました。
ある日の夕ぐれ、いつも いもうとと けんかばかりしている男の子が一人でやってきました。男の子はいきなり大きな木に抱きついて、「よいしょ、よいしょ」とのぼりはじめました。大きな木は〈あぶない ! あぶないからおりて ! 〉と心の中でさけびました。男の子は一番ひくい枝になった大きなポンカンの実をもごうと、木にしがみついたまま手をのばしました。〈あっ、あぶない ! 〉と大きな木が思ったとたん、男の子は地面へとすべりおちてしまいました。男の子はひざをすりむいたものの、すぐおきあがって大きな木にのぼりはじめました。こうやって、何度ものぼってはすべりおちてをくりかえしているうちに、あたりはすっかり暗くなってしまいました。そのあいだ、木はただもどかしく見ているだけでした。
グスン、グスン、ウワーン ! とうとう男の子は泣き出してしまいました。
「いもうとが・・・病気だからかみさまの実をたべさせたいんだ・・・。そうしたら…きっときっとよくなるのに。」
すりきずだらけの男の子はそういって、泣きながら帰っていきました。大きな木は男の子を見おくりながら、かなしくてかなしくてたまりませんでした。そして、〈あぁ・・・かみさま、私にあの子をだきおこす腕をください。私をどうか子どもたちのために生きる人にしてください〉といのりました。すると、とつぜんあたりが昼間のようにパーッと明るくなり、空から天使がまいおりてきました。
「大きな木よ、あなたにはまだご神木としてのやくめがあります。ですが、あなたのやさしい いのりは天にとどきました。一日のうち3時間だけ人のすがたにしてあげましょう・・・。」
そういって天使が手をひとふりすると、木は大きな大きなおばあさんにかわりました。そして一冊の本と羽のはえたえんぴつをおばあさんに手わたしました。
「この本にはまだ何も書かれていません。ここにはあなたが地上でかなえたい夢を自由に書くことができます。そしてこのえんぴつはその夢を描く時におつかいなさい。あなたが子どもたちのために夢を描く時、あなたのエプロンのポケットの中にカギがあらわれます。そのカギを使えば夢を現実にすることができるでしょう。」
天使はそういいおわると、スッとすがたをけしました。あたりにはふたたび夜がやってきました。池のほとりにたたずんでいた大きなおばあさんは、ハッとして月あかりをたよりに本をめくりました。表紙にはホープ(希望)と書かれていました。そしてページをめくり、まずさいしょにポンカンの実を描き、― 病気がよくなるくすり ― と書きそえました。書きおわるとすぐに、チャリリッとポケットがおもくなりました。ポケットに手を入れると、ポンカン型のカギが入っていました。・・・どうやってつかうの?・・・と思っていると、おばあさんの描いたポンカンの絵の横にカギ穴がうきあがってきました。カギをカギ穴にさしこむと、なんと絵の中からムクムクとポンカンの実があらわれました。おばあさんはその実をにぎると、いそいであのすりきずだらけの男の子の家へむかおうとしました。
・・・でも・・・こんな大きな体ではみんなをびっくりさせてしまう・・・
そう思ったおばあさんは、また本のページをめくり、今度はちいさな人型を描いて、―私のお手伝いをしてポンカンの実をはこんでくれる妖精―と書きました。ポケットに手を入れると、小さな人型のカギが入っていました。いそいでカギをさしこむと、小さな妖精がでてきてすぐにポンカンの実をころがしながら、男の子の家の前まで運んでくれました。そしてのこりの時間をつかって、いっしょにはたらいてくれる妖精たちをつぎつぎに描いていきました。3時間がたつと、おばあさんはまた、大きなポンカンの木にもどっていました。それからおばあさんはホープと名のり、毎日3時間だけ人のすがたになって、妖精たちといっしょに、子供たちのためにはたらくようになりました。
その後、池のあった場所に大きな病院がたてられ、ホープさんと妖精たちは病気の子どもたちに夢をとどけるために、病院にすむようになりました。その病院が高知医療センターです。
今もみんなのためにホープさんは本を作りつづけ、妖精たちはたのしくはたらいています。
ほら、耳をすましてみてください。妖精さんたちが歩く足音がきこえてきませんか?人はみんな、まっ白な本をむねのおくに持ってうまれてきます。希望をもって夢を描くために・・・しあわせな夢をかなえるために・・・。
国立精神神経センター(株式会社アールアンテル)
~国立精神神経センターの詩より~ 花ふる森
静かな森のそのまた奥に、花ふる森がありました。
その森では、人と動物と森(木)が力を合わせて世界中に幸せの花を届けるお仕事をしています。
花ふる森には、大きな二本の木があります。
一方の木を<ウンウンの木>そしてもう一方の木を<ヨシヨシの木>といいました。
人がウンウンの木の下に座ると、心の中で色々なおしゃべりが始まります。
するとそのおしゃべりに応えるように、心の中に木の声が響いて来ます。
「うんうん」「そうかそうか」「うんうんわかるよ」と。
ヨシヨシの木はというと、その木の下に座っていると、心の中に木が話しかけて来ます。
「よしよし」「いいこいいこ」「がんばったねいいこいいこ」と。
大人も子供もこの二本の木の下でしずかに座っているだけで心の中のつぼみが、
まあるくまるく膨らんで、やさしい花を咲かせます。
心に一つ花が咲くと、花ふる森の空の上から、幸せの花がたくさん降ってきます。
しずかにしずかに降り積もると、森の動物たちの出番です。
花ふる森に積もった花を一つ一つ丁寧に集めて箱につめ、森をぬけ、林をぬけて町に
住む人々のもとへ届けます。
花が届いた人の心には幸せの灯がともります。
花ふる森の大人たちの願いは「世界中の子供たちが幸せですように」そして
花ふる森の子供たちの願いは「世界中のお父さんとお母さんが幸せですように」
みんなの願いが花となっていつか世界中に幸せの花が届けられるように、
今日も花ふる森では心の中にやさしい花を咲かせています。